● 歴史を学んで ●

○ 外国の文化を学びつつ独自性を維持 ○

日本の歴史を今、学習し終えたみなさんは、
日本人が外国の文化から学ぶことにいかに熱心で、
謙虚な民族であったかということに気がついただろう。

日本人は、
外国の進んだ文化を理解するために、
あらゆる努力をおしまずにやってきた民族だった。

古くは、遣隋使や遣唐使が、
木の船で荒波を越える危険をおかして、留学生を送り出した。

留学生は中国で長い期間を学習についやした。
帰国できないで死亡する者、
やっと帰路についた途中で嵐にあって遭難してしまう者も少なくなかった。

明治になると、留学生たちは
西洋文明を学ぶ使命を帯びてヨーロッパやアメリカに渡った。
当時はまだ飛行機がなかったから、ときには1か月以上もかけて、船で渡ったのである。

このように、
日本人は外国から深く学ぼうとしたが、
それによって自国の文化的な独自性を失うことはなかった。

それは各時代の文化を見ればよくわかる。
飛鳥文化から江戸の文化にいたるまで、
いずれをとっても日本らしいユニークな個性を備えつつ、
しかも世界に通用する普遍的な魅力をもっているからである。



○ 方向が見えない二つの理由 ○

ところが、ここ半世紀は、
必ずしもそうとはいえない時代になってきた。

それはなぜだろうか。

日本人が外国の文明に追いつけ、追い越せと頑張っているときには、目標がはっきりしていて不安がなかった。
ところが今や、
欧米諸国に追いつくという近代日本がかかげた目標を達成し、
日本は、どの国も目標にはできない立場に置かれるようになった。
これが、日本人が方向を見失いつつある一つの理由である。

しかし、もう一つ重要な理由がある。
日本は長い歴史を通して、外国の軍隊に国土を荒らされたことがない国だった。
ところが大東亜戦争(太平洋戦争)で敗北して以来、この点が変わった。

全土で約50万人もの市民の命を奪う無差別爆撃を受け、原子爆弾を落とされた。
その後の占領によって、国の制度は大幅に変更させられた。

戦後、日本人は、努力して経済復興を成しとげ、
世界有数の経済大国の地位を築いたが、いまだにどこか自信をもてないでいる。

戦争に敗北した傷跡がまだ癒えない。



○ 自国の歴史と伝統を学ぶ意味 ○

日本人が、これからもなお、外国から謙虚に学ぶことはとても大切だ。

しかし、
深い考えもなしに外国を基準にしたり、
モデルにみたてたりすることで独立心を失った
たよりない国民になるおそれが出てきたことは、警戒しなくてはならない。

何よりも大切なことは、自分をしっかりともつことである。
自分をしっかりもたないと、外国の文化や歴史を学ぶことも、じつはできない。
そのために、さらに深く自国の歴史と伝統を学んでほしい。

これが『新しい歴史教科書』を学んだみなさんに送りたい最後のメッセージである。