序章 歴史への招待 6ページ
● 歴史を学ぶとは ●
●先祖が生きた歴史
歴史を学ぶとは、
過去のできごとを知ることだと考えている人が多いかもしれないが、これは必ずしも正しくない。
歴史を学ぶのは、過去におこったことの中で、
過去の人がどう考え、どう悩み、問題をどう乗り越えてきたのか、
つまり過去の人はどんな風に生きてきたのかを学ぶことだ、といったほうが良い。
これから学ぶ歴史は、日本の歴史である。
これは、いいかえれば、
みなさんと血のつながった先祖の歴史を学ぶということである。
あなたの最も身近な先祖は、あなたのご両親だ。
両親の先には、4人の祖父母がいる。
こうして世代をさかのぼるにつれ、あなたの先祖の数は増えつづける。
この日本列島に住んでいた人たちは、
現在教室で机を並べているあなた方の共通の祖先であるということもわかる。
日本の歴史は、どの時代を切っても、すべて私達の共通の先祖が生きた歴史なのだ。
●日本文明の伝統
世界のどの国民も、
それぞれ固有の歴史をもっているように、日本にもみずからの固有の歴史がある。
日本の国土は古くから文明を育み、独自の伝統を育てた。
古代において、日本は、
中国に出現した文明から謙虚に学びつつも、
みずからの伝統を失うことなく、自立した国家をつくりあげ、着実に歴史を歩んできた。
そのことは、今に伝わる文化遺産・歴史遺産を観察すればよくわかる。
欧米列強諸国の力が
東アジアをのみこもうとした近代にあっては、
日本は自国の伝統を生かして西欧文明との調和の道を探り出し、
近代国家の建設と独立の維持に努力した。
しかし、それは諸外国との緊張と摩擦をともなうきびしい歴史でもあった。
私達の先祖の、こうしたたゆまぬ努力の上に、世界でも最も安全で豊かな今日の日本がある。
●自分のこととして想像する
歴史を学ぶときに大切なことは、
それぞれの時代に先祖が直面した問題を知り、
私たちもその同じ問題を自分のこととして想像してみることだ。
そうすると歴史上の事実が、単に暗記すべきばらばらのできごとではなく、
その背後にある人々の願いや動機、事実と事実のつながりとしてみえてくるだろう。
歴史を深く探求するにつれて、
思わぬ発見や、多様な見方にもふれることができるだろう。
歴史を学ぶとは、未来に開かれた、過去の人々の対話なのである。